距がないため、クゲヌマラン C. longifoliaだろうかと思ってよく花を見ると唇弁がなかった。これは新種かと思い、ランに詳しい人に連絡してみたが、既に知られているもののようであった。
誠に残念である。
ギンラン var. erectaの唇弁が花弁化した品種である。
ヤビツギンランの名前は、神奈川自然誌資料第3号にある「ギンランの一変異個体について」(柳川, 1982)によると、「産地(神奈川県秦野市)に近い峠の名を借り」とあるため、ヤビツ峠が由来と思われる。
このように、意外と以前から報告はあったようだが、一般には知られていなかっただけのようだ。最近はWebでのヒット数も増えており、所々で見つかっている、というか認知されてきたようである。クゲヌマランとして紹介されている写真にもヤビツギンランと思しきものがあったりする。
なお、『日本のラン ハンドブック ①低地・低山編(文一総合出版、2015)』において、ギンラン var. erectaの唇弁が花弁化した個体に対して、和名なしでvar. oblanceolata N.Pearce & P.J.Cribbとされていたことから、本ページにおいて、当初ヤビツギンランをvar. oblanceolataと紹介していた。
しかし、2020年11月にヤビツギンランを記載した『放射相称花をつけるギンランの新品種ヤビツギンラン(ラン科)』(早川ほか, 2020)によると、var. oblanceolataとヤビツギンランは「蕊柱先端の背面の肥大」の有無で区別され(ヤビツギンランは肥大しない)、これによってヤビツギンランは新品種としてC. erecta f. peloricaの学名が与えられた。
品種名のf. peloricaは放射相称花(ペロリア)から来ているだろうが、ツクバキンラン C. falcata f. conformis、ホシガタクゲヌマランC. longifolia f. conformis、オンタケユウシュンランC. subaphylla f. conformisに揃えて"conformis"を与えてもよかったのではないかと思う。
まぁ、ちょっと変えてみたかったという気持ちもわかる(そんな理由ではないだろうが)。
なお、"conformis"とは「同形の」という意味で、本来唇弁となる部分が側花弁と同じ形をしていることから使用されていると考えられる。

2014/06/01 福島県
(更新日:2021/01/05)